かえつ有明高校の探究学習「Fox Project」に伴走してみたら
教育話題

片山 健志
先生コネクト前編集長

かえつ有明中学校高校(東京都江東区)の主に高校2年生が取り組む「Fox Project」という探究学習のプロジェクトで、2024年度のサポーターを務めさせてもらった。その成果や経過をご紹介したい。
24年度のプロジェクトのテーマは、「共に生きる~見えていない世界と向き合って~」。24年9月からの約半年間、生徒は数人のグループごとに、「共に生きる」対象や「見えていない世界」を自分たちなりに解釈して具体的な問いに落とし込み、活動を通じて答えを探った。校外のさまざまな人がサポーターとして対話を通して支援したが、筆者もその一人だ。保護者らを招いて成果を披露する2月の「アカデミックデー」が発表の場となった。
SNSでの誹謗中傷を減らそう
「SNSでの誹謗(ひぼう)中傷を減らそう」をテーマにしたのは、いずれも2年生の阿部愛茉さん、小川真央さん、西澤龍汰郎さん、マッコムズ健也さん、松本澪さんの5人。誹謗中傷が全国でどれくらい起きているのかデータを集めるとともに、減らすためには加害者の背景を理解することが必要とみて、加害者に着目したのもポイントだ。
XとTikTokの利用をめぐって校内でアンケートを取り、「無意識で誹謗中傷をしてしまうかもしれない」と思う人はXのほうが多く半数以上に上り、なぜ誹謗中傷をしてしまうかもしれないかについて「自分が悪くないと思って」「表情や声のトーンがわからない」「ネットの嘘の情報をうっかり信じてしてしまう」といった理由を浮かび上がらせた。どんな表現が誹謗中傷に当たるのかも探った。
誹謗中傷を受けた経験者から学ぼうと、「突然、僕は殺人犯にされた」の著書がある一般社団法人インターネット・ヒューマンライツ協会代表のスマイリーキクチさんにインタビュー。加害者について、年齢や職業はさまざまだったが、「フィルターバブル」の中で自分は正しいと思い込むおそれがあり、異なる見解に対して攻撃的になりやすいことなどを引き出した。中傷を受けて命を絶ったプロレスラー木村花さん(当時22)の母・響子さんや、TikTokのフォロワー数が50万人以上で中傷を受けた経験を持つ中野亜紀さんにもインタビューした。
こうした調査や取材の結果、思ったことをすぐ投稿せずに時間を置いて見直し、自分が見えていない世界を想像しながらSNSを扱うことが大切だ、と結論づけた。意欲的な活動を、誹謗中傷を減らすにはどうすればいいかという問いにつなげていたことに感銘を受けた。
外国人が安心して旅行できるために
2年生の青野結心さん、橋本健司さん、増嶋かのんさん、渡邊凜乃さんの4人は、「日本語が不自由な旅行者にとって安心できる環境を作るには」を探った。渡邊さんや青野さんが、海外での生活経験から、洋画の翻訳表現に違和感を持ったことが出発点だ。
意外な結果となったのが、冬休み中のフィールドワーク。英語が通じるとわかってもらえば話しかけられやすいとの仮説を立て、外国人旅行者の多い浅草の街頭へ。2組に分かれ、……

片山 健志
1999年、朝日新聞入社。北海道支社報道部(現・北海道報道センター)、福島総局、東京社会部などで勤務。社会部では文部科学省など主に教育部門を担当した。「朝日みらい教育フォーラム2017」でコーディネーター。21年4月から25年3月まで寺子屋朝日・先生コネクト編集長。