重い生理痛は病院で治療を! 思春期の月経困難症 不安や緊張に寄り添って
教育話題
秋谷 進
東京西徳洲会病院小児医療センター医師・救命救急士

子どもたちの健康に関して、先生方に知っておいてほしいこと、お願いしたいことを東京西徳洲会病院小児医療センターの医師、秋谷進さんが書きおろすシリーズ「子どもを診(み)まもる」をスタートします。医療現場での実体験や研究者の論文、公的機関などの統計データに基づいて解説します。初回は「重い生理痛」がテーマです。
「生理が辛くて学校にいけない」
「周りに話しても生理の痛みをわかってもらえない」
多くの思春期の女の子が、こんな月経に伴う激しい痛みや不快な症状に悩まされているのをご存じでしょうか。何も原因がなくても出産可能年齢の女性の45%〜95%とも言われる「月経困難症」です。そのうち2%~29%の方が重度の痛みを経験しているとも言われています。
あまりに強い痛みのために学校や仕事もままなりません。実際、2010年に行われたアメリカの研究では、月経困難症の女性の学校欠席は14%〜51%であり、月経期間中、授業出席率は29%〜50%低下もすると報告されているのです。
実際に、2016 年のスポーツ庁委託事業「子供の体力向上課題対策プロジェクト」で千葉県の中高生(計608人)に行った調査によると、71%は月経痛が、34%は月経前症候群(PMS)があると答えています。しかし、月経痛に対して「薬で治療している」が35%しかおらず、月経痛に関して積極的な治療が行われていないのです。
これは大切な思春期というかけがえない時間を奪う由々しき問題でしょう。今回は、病院では月経困難症をどのようにとらえ、治療していくのかについて解説していきます。
*PMS :月経前症候群(premenstrual syndrome)の略。月経の3~10日前ごろからおなかや腰が痛むなどの体の不調や、イライラするなどの心の不調が起こり、月経の開始とともに徐々に症状が和らぐ状態の総称。はっきりとした原因はわかっていないが、排卵後の黄体ホルモンに対する体の感受性の変化が関連している可能性が指摘される。症状が強いと日常生活や社会活動に支障をきたす場合もあり、女性の生活の質に大きく関わる。
治療すべき病気が見つかることも
まず、よく誤解されているのは「重い生理痛は個人差」程度に思われていることです。確かに原因が不明である「原発性月経困難症」のこともありますが、実は治療しないといけない病気が隠されているケースも少なくありません。
たとえば、治療が必要な「器質性月経困難症」といわれるケースは次の通りです。
これらの疾患の場合は、それぞれに対して適切に対処する必要があります。そのため「生理が重いです」と言われても、すぐに「痛み止めを出しましょう」とはならないこともしばしばです。採血をしたり、膣エコーをしたり、その他画像診断をすることがあります。
原因不明の「重い生理」でも治療は有効
たとえ原因が不明の重い生理痛である「月経困難症」だったとしても、薬物療法は有効です。月経困難症に対する病院での治療薬は、例えば以下の通りです。
注:ミレーナ52mgは、過多月経+月経困難症の治療薬としてガイドラインで使用が勧められています。現在世界約130カ国で、トータル約3900万人の女性が使用しています。
実際、これらの治療は多くの臨床試験でも有効性が確認されています。例えば、80件のランダム化比較試験をまとめた論文によると、最も生理痛で使われやすいロキソニンを代表とした「NSAIDs」は痛みの緩和に関して、プラセボ(偽薬)と比べて4.5倍有効だったとしています。
また低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬についても21件(3723人)のランダム化比較試験を解析したところ、無治療と比較して9%〜22%の方が改善しているとしています。漢方薬でも54件のランダム化比較試験(5324人)において、有効性が証明されています。
もちろん治療を組み合わせることもできるので、より効果は高まるでしょう。そう考えると「月経困難症」は原因不明であったとしても治療の選択肢は色々あり、「我慢しなければならない問題」ではありません。
原発性月経困難症に対する経口避妊薬(原発性月経困難症の管理に経口避妊薬使用のメリットデメリット評価した論文 .Combined oral contraceptive pill for primary dysmenorrhoea.)
原発性月経困難症に対する漢方薬:54のランダム化比較試験の系統的レビューとネットワークメタアナリシス(原発性月経困難症の女性を対象とした、さまざまな漢方薬の相対的な有効性と安全性を評価した論文 .Chinese herbal medicine for primary dysmenorrhea: A systematic review and network meta-analysis of 54 randomized controlled trials. )
原発性月経困難症:病態生理学、診断、および治療の最新情報(Primary Dysmenorrhea: Pathophysiology, Diagnosis, and Treatment Updates)
先生にできること、してほしいこと
成長に伴うからだの変化は子どもにとって初めてのことです。初めてのことには、どう対応したらいいのか?……
秋谷 進
1992年に桐蔭学園高校卒、1999年に金沢医科大学卒。国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院小児科、児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科などを経て、2020年5月から現職。専門は小児神経学、児童精神科学。