つながりを大切に、多様性受け入れる種をまく 愛知・豊明中の河村知里さん
教育話題

黒澤真紀
フリーライター

#海を渡る先生
愛知県豊明市立豊明中学校の英語教諭河村知里さん(29)は、2023年にJICA中部・北陸の教師海外研修で10日間、ネパールを訪れました。日本でさまざまな技術を学んだ経験を持つ人々との交流や日本とのつながりに触れ、つながりがもたらす可能性を強く実感したといいます。外国籍の生徒が多い学校の特長をふまえ、違いを認め合い、つながりを大切にする河村さんの国際理解教育とは。
2年生のテーマは「つながり」
2024年11月、豊明中2年3組の教室には、早川貴宏校長をはじめとする同校教員のほか、スクールカウンセラーや市教育委員会職員、愛知教育大学の学生ら10人ほどが見学に訪れていた。2年生の国際理解教育主任の河村さんが、「総合的な学習の時間」を使って担当する国際理解教育の授業だ。
同校では、年間の「総合学習」のうち6、7回を国際理解教育に充てている。学年ごとにテーマを設け、今年度の2年生のテーマ「つながり」は、総合学習の主任でもある河村さんが提案した。同校では、国際理解教育は教員がそれぞれの経験や特長を生かし、国や授業内容をアレンジして構わないという。
この日扱ったのは農業。「つながり」をテーマに、日本とネパールの農業生産者が抱える問題を学び、生産者と消費者が互いに利益をもたらすプロジェクトを提案するのがゴールだ。「生産者と消費者の間にあるジレンマに気づかなければ、深い学びにつながらない」と、両者の思いを考えるワークから始まった。
生産者と消費者のジレンマに気づく
まず、消費者の視点から、「野菜やフルーツを買うとき、何を重視するか」を4〜5人の9班に分かれて話し合う。「安全性」「値段」「味」「コスパ」「鮮度」「見た目」「いろどり」などが上がった。
では生産者の視点では何が大事なのだろう。河村さんは、豊明中の子にとって、生産者の立場はイメージしにくいと考え、調べた結果を記したプリントをネパール版、日本版の2種類配布した。「味」や「見た目」は消費者の視点と共通だったが、ほかに「利益」「安全性」「SNSでのポジティブな反応」などがネパール版、日本版ともに上がっていた。
次に生徒たちはタブレットを取り出すと、考えたことをリアルタイムで共有するツール「コラボノート」を開き、プリントを基に考えたことは黄色の付箋(ふせん)に、疑問はピンクの付箋に入力した。
「生産者と消費者の思いは逆になることが多い」「日本の農作物は安全だが、値段が高い」など多くの黄色い付箋が画面に表れる中、河村さんは「生産者は利益を得たいが、消費者のために安くしたい」をピックアップした。「消費者が安さやコスパを求めるほど、生産者の利益が圧迫される。ジレンマがありますよね」
日本とネパールという異なる環境で、それぞれの生産者と消費者の間にはどんな課題があり、どうしたら解決できるのか。それを考えてもらうため、河村さんが生徒に投げかけたのが「生産者と消費者がともに利益を得られるWIN-WINプロジェクト」というものだった。
日本、ネパールどちらかの生産者と消費者の関係に焦点を当て、ともにメリットを享受できる仕組みを考える企画。「どちらの国を選んでも構いません。ネパールの生産者に役立つアイデアがあれば、ネパールの農村を支援する団体へその案を推薦します」。河村さんがそう伝えると、「日本代表になろう!」との生徒の声とともに教室は一気に盛り上がった。
「WIN-WINプロジェクト」で企画力育む
授業で企画を考えさせるのには、「企画力」を育む目的がある。「現代社会は変化が激しく、自分で事業を立ち上げたり、新しい取り組みを生み出したりする力が必要です。そのためには、自分だけでなく相手の視点に思いをはせ、つながりを意識しながら考える力を養ってほしい」と河村さんは話す。
日本では農産物の販売には生産地などの表示がルール化され、生産者名まで表示されることもあるが、海外の多くの国ではそうした表示がなく、かごなどにまとめて売られていることが一般的という。話し合いが続く中、河村さんが店先に野菜などが並ぶネパールの写真を見せると、「ブラジルでは全部一緒に売るし、誰が作ったかなんて気にしない」「フィリピンも同じ。野菜は同じかごに入ってる」とそれぞれの国にルーツを持つ生徒が反応した。
そのやり取りを受けて、……

黒澤真紀
都内学習塾勤務を経て2011年からフリーライター。教育を中心に、医療、ライフスタイルなどの分野を執筆。学力格差問題に関心があり、お茶の水女子大学大学院修士課程へ。現在もアカデミック・アシスタントとして勤務。高校生と中学生の息子がいる。